第6章 N二乗法則の応用

原題 : THE N-SOUARE LAW IN ITS APPLICATION (1914/10/9)

【目次】


33 異質の兵力に対するN二乗法の応用

前の項では、近代戦争の条件下ではその部隊の闘争力が、兵員数の2乗によって計られ、また表わされるという事が証明された。

陸上の作戦では、部隊員達は実際の戦闘員であり、また、砲兵の闘争では砲兵部隊がその単位である。

しかし、海軍の戦いでは主力艦数が兵員数になり、また飛行機間の攻撃ではその機体数が1単位となる。

構成隊員の個々の闘争力が違う場合に、もしこれらの構成員に数値があてはめられるとすると、全体の闘争力は個々の力に掛けた数の2乗として示されてきた。

構成要因がその内部で違っている場合、例えば同質ではない艦隊では、部隊の闘争力の計算は個人部隊の力の二乗根の合計の2乗として出される。


34 図表による説明

前述の応用を試す前に、空中戦の指揮、あるいは戦闘機の装備にふれながら、いくつかの特殊な場合とは、また適った方向から見た応用の仕方を調べ、さらに、いくつかのある限界について検討することは興味のあることである。

N二乗法則の展開に便利なグラフ形態は、図表⑦に表わしているようになる。ここでは分離された軍隊が連続的に動員され数の力をa・b・c・d・eの線で表わし、これら軍隊の集合闘争力はA・B・C・D・Eの線で表わす。

各々は図に示されたように直角三角形の斜辺となる。

このように別々に行動するとaとb双方の部隊は単一部隊の闘争力だけを持つことになり数字上はBの線で表わされる。

a・b・c三つに分離された勢力は、人数Cの単一部隊により起こされる、

3度の連続的戦いで同じ限界線上で出会う事になる。

 


35 特別または極端な場合

図表7の図形からはちょっと見ただけで間接証明法のように見える特殊な場合が示されるが、正しく説明するならこれこそN二乗法の確認なのである。

図7について述べると、軍隊や艦隊の主力はあるきまった大きさであるが、後からやって来たb,c,dとその他は非常に小さい上におびただしく分離をしており、事実非常に小さく、図形の測量上では極微量として表わされている。

それからb,c,d,e,fなどの線は、やや円に近い多角形で表わされ、ある点ではそれは円になりその半径が図8の根本的な力「a」で示されている。

ここで我々はその結果をグラフで表わしている。

つまり加算された部隊の闘争力は、その総数がどうであれゼロである、ということである。

その総数は図8の円周の線で表わされる。

これについて正しい説明をすると、攻撃中の野外では、あるいは圧倒的大勢力から攻撃を受けた小勢力は、その数的価値に匹敵する犠牲を与えることもできずに、全滅させられるということである。

つまり他の環境のもとでは、より大きな勢力は砲火を集中する事が不可能な事なので、野外でというのは欠かせず、これは基本的な仮説として必須の部分である。

極端に不均衡な勢力の場合には、より少ない少数勢力の容量はとるに足らないものになる。

この結果に対して不適当なことは何もないが、その仮説は破られているので、隠れた少数勢力の場合には適用されない。

率直な言い方をすると、図8で表わされた状態は、圧倒的勢力の前面では少数勢力は完全に無力である事を示している。

もう一度古代戦闘時と比較してみると、古代の戦いでは、大軍勢の武器力は集中される事がなかった。

次に述べるマッコーレイの詩の一行は本質的に過去における方法と状況を述べている。

「狭い小道では、1000が3によって行く手を阻まれることもある」

しかし、射程距離の長い兵器が中心になっている近代戦では、1万の武器力でさえ物理的に一カ所に集中することが可能である。


36 海軍戦におけるN二乗法則

まだ完全とはいえないが、N二乗法削が幅広く作戦に応用できることを説明して来た。しかしながら陸上の戦いでは、山などの障害物によって作戦が一時中断されたり、妨害されたりする事があるので、仮説が成立しにくい多くの要因や特別な状況が存在するのは確かである。

だが海軍戦では、妨害する要素がほとんどないので仮説に極めて近くなる。

さらに、軍艦対軍艦になると、歩兵が砦によって守られるというような防衛側にとって有利な点は全くない。

一度戦いの火蓋を切ると、個々の船は砲兵隊員のターゲットになる。海軍の戦いでは、敵全体に向かって発砲されたり、無差別に発砲されたりということはまずなく、全ての大砲がある決まった敵の船にまっすぐに向けられる。

昔の帆船は、900~1100mが最大射程距離であったので、範囲は制限されるが集中は十分可能であった。

18世紀後半の戦術を調べてみると、一般的に誤差はあるものの集中力の結果が、理論で示されたものとあまりかけはなれたものではなかった。

しかしどんな範囲内であるにせよ、今日の軍艦同士の戦いでは、数の多いほうが一層好都合であることが明白である。

というのは6~8kmの射程距離が可能な近代の戦争では、実質的に戦火を集中するのに制限はない。

実際のところ近代の海軍戦では、昔のように敵の船尾まで接近するということはまずありえない。

このように今日では、理論的処理の見地から見ても殆ど理想的なものとなっている。

各々が同等の力を持っている軍艦の戦いでは、沖にいる数の少ない艦隊が、優勢な艦隊から集中砲火をあびなければならず、戦いが進むにつれて小さな艦隊はこなごなに砕かれ、不均衡さは益々大きくなり、より集中的に砲火を受けるであろうことは明白である。

これらはまさに、N二乗法則が導き出された調査の基本となる状況なのである。

同じことは、空軍機が戦闘に関与している地域戦争にも適用される。

戦艦の場合には両側の2方向からの攻撃に限られるのに比べ、飛行機は空中の3方向から攻撃できるという事実の見地に立つと、なおさらそうなる。

つまり、中位の射程距離を持つ武器でさえ、集中砲火の度合いは非常に大きなものになる。

左右はもとより、上からも下からも攻撃ができる飛行機の戦いでは、少数の勢力に対して集中砲火を浴びせることに全く制限がない。

そして、数の上で少しでも勝っている艦船は、その数の有利さ以上に大きな恩恵を受けることが出来るのである。


37 船や部隊の固体価値

艦隊戦力の評価をするのは最も難しい。

特に隊員個人を除いて、その部隊の個々の価値が一定でないときはそうである。

船の戦闘力は、砲の攻撃力だけでなく装甲の状態にもよるので、一層むずかしくなる。

一隻の船が、ある一定の射程では他の船より強力かもしれないし、また長、短距離では弱いかも知れないので、艦隊の戦力は単純に計算できるものではない。

だから戦艦を設計するときに正確に計算することは出来ない。

実際に殆ど大部分は、予想される敵側のタイプ別、戦艦別を考えに入れて計画を立てることが多い。

しかしながら、一般的に我々が主力戦艦に注意を集中し、砲の口径や射程距離で、ほぼ同等の能力を持つ船について考える限り、個々の船の戦闘価値は舷側(※げんそく。船体の側面)の勢力で測られるかもしれないし、また一層正確にするために異なる砲を、各々計算できるかも知れない。

さらに、艦のスピードや1分間に何発発射出来るかを計算することの測定も、可能になるかもしれないが、より公平な比較をするなら、舷側射撃に対する1分間毎のエネルギーを数字で表わすことである。

それは、戦闘機として船の馬力を表わしているものともいえる。

下向きの銃火力は戦艦に関する舷側射撃よりむしろ極めて重要なものと見なされるかもしれないが、似たようなことは戦闘飛行機の応用に見ることができる。


38 N二乗法則の応用

我々は戦艦を二つまたはそれ以上の艦隊に分けて戦ったりするものなら、集中の法則によりすぐにその報いを受けるとN二乗法則は教えてくれている。

この点で我々の現在の配置、例えば、単一戦艦または大規模戦艦はずっと経済的であるし、戦略的には昔のチャンネル艦隊や地中海の艦隊よりも防御力としては好ましい。

もし、政治的、地理的理由のために、攻撃の際の瞬間的集中力をはばむものとして、ある程度離れた地域で分離された戦艦の力を継続して維持する必要があるとすれば、その国の費用は莫大なものになるであろう。

同等戦力における単一または大規模艦隊
(各ラインは人数の力を示す)

例えば二つの同等に分けられた戦艦の場合には、艦隊や戦隊に分けられた形では約40%の増加がなされなければならない。

つまり1対√2の関係になる。

もっとも一般的には、その解決方法は図9に見られるように直角三角形によって示される。

この巨大な増加においても安全性は紙の上で見るほど大きなものではない、という事を忘れてはならない。

というのは、敵の艦隊にとっては我々の艦隊の一セクションを負かすことによって、自分達の基地で修理出来るよう後退し、その後で戦えば戦力の有利さが出て来るのである。

このことは、紙の上で既に数で負けていて、また彼等は王様や国民によって大砲の餌とみなされているために、一番最初に行動に出ようとする艦隊員の士気を砕いてしまっているということも忘れてはならない。

これからさらに進んで、二つの連続した艦隊行動と敵が最終的に負かされるとすると、人材・物資両面の勝利の代価は、同等の総合戦闘力の単一艦隊の場合よりも、分離した時の方が戦闘に参加した人形の数の割合で大きくなる。

それは、つまり図9にあるように直角三角形の二辺が直角三角形の斜辺よりどのくらい大きいかという割合となるのである。

簡単に言うならば政治的、地理的影響やその他の理由がいかに重大なものであっても、一国が防御力として頼りにしている主力艦隊を二分する戦略が、どの様な環境においてもいい結果にはならないのである。

今日これらについては、評判の高い海軍戦略家達によって、すでに受け入れられている見解であり、現在の大英帝国の海軍力の配分はこれに基づいている。


39 海軍戦術の基礎となった集中砲火

海軍戦術のほうに目を向けてみると、集中砲火の問題は大変重要なものであることがわかる。

18世紀の終わり頃まで明白な戦術案に対する価値は全く知られていなかった。1780年頃、フランス海軍大将スフレンは、彼が「小心者のベール」として非難していた「戦術の紹介」を、海上でフランス軍が被った被害の原因としたとさえ言われている。

多分、その当時のフランス海軍の船舶操縦術は非常に低く、一番簡単な戦術を少しでも越えたものは混乱を引き起こし、むしろ危険でさえあった、といわれている。

しかしながら、その間題は相当な注意を喚起していた。

1780年頃作家のクラークは、イギリス軍の攻撃に対してフランス軍は、連続闘争の形の防御方法を採用していることを指摘している。

これは最初に風下に艦を配置し、彼等は戦線より前に出てイギリス軍の攻撃を待ち、その後でイギリス船の舷側に攻撃を加えたら、彼等は再び風下に立ち去り、自分達の陣形を立て直し、もう一度攻撃を待っていたというように、同じような過程を繰り返していた。

これらの戦術によってフランス軍は、イギリス艦隊の特定の目標に集中砲火を加え、自らはほとんど傷を負わないで大打撃を与えることができた。

このように、我々は防御の際の効果的な戦術的方法をとることの起源を見ることができる。

今日にいたるまで集中攻撃の効果に対して、基本的にもっと詳しく調べてみようとする計画は、いまだ試みられていないようである。

つまり昔の隊形は、平行な縦列やある船はある船とだけで戦っていたために、もしいずれかのほうが数の上で勝っていても、余分の船は後のほうに重なるようになっていたからだ。

1782年の「セインツの戦い」で初めて変化があった。

偶然か意図的かは分からないが、ロドニーは従来の慣習から脱出して、敵の列の真っただ中を突っ走って、自分の左右前後に十分な集中力を払い、それによって決定的な勝利を治める事が出来た。


40 1805年におけるイギリス海軍戦術「ネルソン・タッチ」

海軍戦術のほうに目を向けてみると、集中砲火の問題は大変重要なものであることがわかる。

18世紀の終わり頃まで明白な戦術案に対する価値は全く知られていなかった。1780年頃、フランス海軍大将スフレンは、彼が「小心者のベール」として非難していた「戦術の紹介」を、海上でフランス軍が被った被害の原因としたとさえ言われている。

多分、その当時のフランス海軍の船舶操縦術は非常に低く、一番簡単な戦術を少しでも越えたものは混乱を引き起こし、むしろ危険でさえあった、といわれている。

しかしながら、その間題は相当な注意を喚起していた。

1780年頃作家のクラークは、イギリス軍の攻撃に対してフランス軍は、連続闘争の形の防御方法を採用していることを指摘している。

これは最初に風下に艦を配置し、彼等は戦線より前に出てイギリス軍の攻撃を待ち、その後でイギリス船の舷側に攻撃を加えたら、彼等は再び風下に立ち去り、自分達の陣形を立て直し、もう一度攻撃を待っていたというように、同じような過程を繰り返していた。

これらの戦術によってフランス軍は、イギリス艦隊の特定の目標に集中砲火を加え、自らはほとんど傷を負わないで大打撃を与えることができた。

このように、我々は防御の際の効果的な戦術的方法をとることの起源を見ることができる。

今日にいたるまで集中攻撃の効果に対して、基本的にもっと詳しく調べてみようとする計画は、いまだ試みられていないようである。

つまり昔の隊形は、平行な縦列やある船はある船とだけで戦っていたために、もしいずれかのほうが数の上で勝っていても、余分の船は後のほうに重なるようになっていたからだ。

1782年の「セインツの戦い」で初めて変化があった。

偶然か意図的かは分からないが、ロドニーは従来の慣習から脱出して、敵の列の真っただ中を突っ走って、自分の左右前後に十分な集中力を払い、それによって決定的な勝利を治める事が出来た。


41 ネルソンの覚え書きと戦術計画

敵の前衛艦隊を一層妨害し行動を邪魔しようとするために、あまり重要でない部隊の数隻の船を攻撃計画の一部に入れて、できるだけ多くの前衛船を途中で引きつけるように、と命令が出された。

つまり規模は小さいが独立行動で戦う、という事である。

これは明らかに負け戦であると誰もが信じていた。

この件に関してネルソン提督は、10月5日の覚え書きで次のことをはっきりと示している。

フランスとスペインの連合艦隊が46隻であるのに対し、彼は自分自身の部隊は40隻の船による攻撃計画を想定していた。

結局後になってわかったのだが、これらの数字は実際に参戦した船の数に較べるとかなり大きな数字である。

しかし我々はここでは彼の「覚え書き」の内容を論じているのであって、実戦のことを言っているのではない。

イギリス艦隊は、16隻からなる二つの主要艦隊と8隻による三つの縦列を作るはずであった。

前線に敵の船が発見された場合の攻撃計画は簡単に言うと次のようなものだった。

主要艦隊の一つは、敵の戦線を中央あたりで二つに切り裂き、他の船は背後から12隻の船のところを突破するということであった。

その後、小列の船は中央から3~4隻前のところで敵の前衛艦隊を攻撃し、中央あるいは後方で危険な状態になっている味方の船を援助しにやってくる敵の前衛艦隊を、できるだけ妨げるように命令されていた。

即ち、その日的はフランスの連合艦隊の前衛艦隊が、主要なところに対して攻撃に参加するのを妨げるということだった。

その計画は図10で示されている。

 


42 ネルソンの戦術計画分析

前述の配備の結果として出て来た数字は参考になるものである。

ネルソンが連合艦隊の半分、つまり23隻の船を包囲しようと計画した軍勢は、全部で32隻に及んだ。

N二乗法によれば、これはおよそ「2対1」の闘争力でネルソンを優勢に導き、さらにオトリとなった特別の8艦隊もダメージを受けることなく、フランスの連合艦隊の残り半分に対戦できるということを意味する。

連合艦隊の前衛船が、恐らく以前の戦いで多少の能力が損なわれるであろうという事実は、その戦術計画が有利であることを表わしている。

ここまで見てくると、正しい戦術計画がいかに重要であるかがよく分かる。

実際の戦争で昔の攻撃方法がとられたとすると、優れた船舶操縦術とイギリスの砲術作戦のどちらが完敗を防げたかは全く断定出来ない。

実際勢力は連合艦隊33席に対し、イギリス船隻27隻であった。

この数は「覚え書き」の中で仮定しているより多少少ない割合ではある。

実際に戦争が起こったときイギリス軍は、「覚え書き」にあるように、3縦列で攻撃するかわりに2縦列で攻撃した。

しかし集中戦術は、最初に考えたとおりに行なわれた。

その時の海風は、凪ぎに近い状況であったので、敵の前衛艦隊が後方支援にくるのを妨害するのに有利であった。

しかしながら、参考までに「覚え書き」は実際の出来事よりもっと大切であり、前述の分析では次のような素晴らしい点を見ることが出来る。

まず第1に、敵を二つの同等の力に分割してしまうという、はっきりした計算、つまりN二乗法によれば正確な割合は全勢力の縮小を最低限にするということと一致するということ。

第2番目に、比率の選定は理論上√官に最も近い定数が戦闘力として必要とされる敵を2等分して妨害できるのである。

そしてオトリとなる8隻は、敵の力を弱めるために敵の艦隊の半分を妨害するのである。

簡単に予想されると思うが、前述のことは単なる偶然の一致以上のものであり、ネルソン自身、N二乗法のことは余りよく知らなかったかも知れないが、自分の戦術価値を計算出来ると同等の基礎的能力を持っていたに違いないと思われる。