野口会長 講演録

私は評論家でも先生でもありません。ただ、体験談をお話しするだけです。
失敗したダメな男の話をするだけです。

私はバカでしたという話をするだけなのですが、それでも聞いていた方から、最初から最後まで山ばっかりで一言も聞き漏らすことはできなんだと。

お経のようなもので、毎日聞いていても飽きないよと。いろんな反響があります。

それでは私そんなに難しい話をしているのかというと、そうではありません。
誰にでもわかりきっている話。ところが人間というのは、分かっているのだけれど中々実行できないようですね。

私の話の結論は、どんな場合でも決して「グチを言ってはいけません」という話。
分かっているんだけれども、またついグチを言っちゃうんじゃないですか。

グチを言っているうちは、幸せは訪れてはきませんという話をしたいんです。

とにかく「グチを言うな」。
これを英語で言うと「ノーグチ」(野口)

グチを言わない私が主催する八起会とは倒産110番、駆け込み寺。
全国経営者の悩み事、苦しみ事、365日休みなく相談を受けております。
ストレスの溜る仕事です。

今まで何十万人もの相談を受けて、いろんなことが分かりました。

その中の1つが、経営者の目的とは何か?
経営者の目的とは、会社を潰さないことですよ。

こういう勉強会をやっている目的は何なんだろうか。

どんな素晴らしい先生が来て、どんな話を聞いても、とどのつまりは企業を潰さない、人間を潰さない。

潰さないことを学んでいるんじゃないでしょうか。

だとしたら、たまには「失敗の哲学」を学ぶべきです。
なぜかといえば、成功は過去のもの、失敗は未来につながります。

松下幸之助さんという偉い人がいましたが、あの人は暮れになると売れない店を歩いたそうですね。「この店はなぜ売れないのだろう?」。その答えは明くる年の経営方針にしたそうですね。

経営の神様が、ダメなお店を模範とした。
私たちも「反面教師」。模範となる部分、たくさんあると信じています。

それでは私たち倒産人間は、皆さんとどこが違うのでしょうか?
私たちは皆バランスが悪い。

一生懸命に体を鍛え、おいしいものを食べ、マラソンしたり、水泳したり。
そして、働いて働いて金持ちになった。
しかし、どんなに金持ちになっても、突然潰れたんですよ。

「金」があってもダメでしたよ。
なぜかというと日常、「金」と「体」の努力だけしかしていないからですよ。
「心」の努力、全然しておりません。このバランスの悪さから潰れた。

ところが今、日本全体がこうじゃないですか。
世界一金持ちで、世界一長生き。これだけの民族なのに、世界から感謝されてませんね。

いかに(心の)貧乏か。 日本という国全体が、倒産寸前なんだと。

今日は、倒産の話を通じて、トップとして人間として、どう生きるべきか。

ようするに「心」の大切さがわからない人。
こんな基本的なことを知らないクセに、社長をやってきたんですよ。

人間というのは、幸せ・不幸、金持ち・貧乏人、成功者・失敗者、両極端がいるんですが、あんがいこれ一人の人間が両方やるんですね。

昨日まで、くすぶっている小さな企業でも、何か1つ当てただけで大企業になっています。

ところがその逆、考えたくもないでしょうが、どなたにでも挫折、失敗は訪れてくる。
あることがきっかけで、一夜にして失敗してしまう。
ところがその逆です。
は成功者、あることがきっかけで一夜にして失敗者になる。

つまり、成功・失敗は、かけ離れているんじゃないんです。
コインの裏表のようにピッタリくっついている。
だから両方学ばなければいけないのに、私たちは切り離したんです。

成功の学び方、これはあくまで情報・知識でしかないんです。あればいいものじゃない。
こういう勉強会ばかりやって、あまりにも知りすぎたために、どうなったか?

人を軽蔑してしまったんです。
「あいつはバカだな、どうしてこんなことが分からないんだ」。軽蔑、批判するトップ。

私たちの仲間、ものすごく知っていましたよ。
あれほど知っている人間がなぜ潰れるのか。不思議に思うほど潰れてゆきます。

知っていることと実務能力、一切関係ありません。

世の中の不況なんて気にしないで、知恵を気にしてください。
知恵の出てこない人は、何をやっても上手くゆかないんです。
知恵というのは、心が豊かでないと出てこない。

思いやり、気配り、慈愛心。どうしたら人を喜ばすことができるのだろうか、この努力が知恵ですよ。

ところが、私たちは自分さえよければという社長。思いやりはまったくありません。

思いやりなし、知恵なし。こういう人間に限って危機感なし。

私どものアンケートで、「倒産する1年前に、倒産することに気が付きましたか?」という質問をしました。

8割以上は「No」です。

倒産一年前と言ったら「断崖絶壁」。それでも、まだ気が付かない。それほど、ボンクラ社長。

企業の恐ろしさを知らない。例えば、手形・小切手の恐ろしさ。在庫の恐ろしさ、ダメ社員に払う給料の怖さ。

まして、倒産の怖さ、倒産の研究したことありません。

なぜかというと絶対潰れないと思っていたからです。
この辺が甘いんですよ。企業とは作ったら、潰れるもんなんだ。倒産とは常識です。

ほとんどの社長さん、破産という法律ご存じないですね。

破産するのにお金がいるんだというというのも知らない。負債が1億と3億なら予納金が全然違ってきます。

1円もないままパンクする。これではきちっとした整理ができません。

やがて、夜逃げ。夜逃げすれば、楽ではなく倍の苦しみです。住所不定で健康保険証が使えない生活。

「10年間、逃げて逃げて借金踏み倒してしまえ」そんな奴らにいい生活が待っているはずはないんです。

倒産とは何もかもなくなること。
全財産がなくなって借金だらけ。信用・信頼という二文字がなくなる。

皆さん方、頭では理解できるのでしょうが、体験者でないとこの痛み苦しみ、ご理解は無理かと思います。

普段仲良く付き合っていた友人知人、誰も訪ねてこないんです。一人ぼっちになる。まさに地獄の孤独。

ちょっとしたことでイライラする人、クヨクヨする人、やたらに怒るタイプ。こういう人はトップに向かない。

経営能力以前の問題。精神能力を鍛えておかないと逆境は乗り切れません。

金がなくなっただけで病気になるトップ。ノイローゼ、うつ病、しまいには自殺。

倒産者は100%自殺を考えます。あまりにも苦しくて。

50歳になって倒産する。失業保険は使えない。年金貰うのは10年先。自分の家はない。アパート暮らし。

アパートだって、8万前後掛かるんでしょう。その金どっから出すんですか。

働く場所はない。地主は出てゆけという。家族に白い目で見られる。
こんな時、誰だって死にたくなります。

こういう人には、元気が出る指導。お説教は元気がなくなる。
「俺はこうやって上手くやったもんだ」それは処世術の押し売りにしか過ぎない。

皆さんは正常なんですが、倒産寸前の人に正常な人はいないんですよ。支離滅裂ですよ。

こういう人を救う場合、黙って聞いてあげてください。聴くということ最高の指導です。

倒産者は、自殺して保険金で支払うなどというが、「家族としては、どんな地獄に落ちようとも、元気で生きていてくださいね」と言っているのに、「家族のために死んでやる」と言っているんですよ。

私は遺書を何十通も持っていますが、とにかく遺された家族がその後どんなに苦しんでいるか。

その実態を知っているがゆえに、自殺という行為だけは絶対に許せないんですよ。

倒産者というのは、世間の人に対して、何1つ言えなくなる。ただひたすら謝るだけ。

そんな生活をするのが嫌だったら、倒産を避けることです。

裁判所に行って被告席に座る。嫌な冷たいイスでした。
皆さん方も倒産すれば、あの冷たいイスに座ることになるんです。
今の御商売、もっともっと大事にしてほしいです。

ところが、あまり商売にばかり気を取られると、またバランスを崩しますよ。
今度は家庭倒産、身体の倒産。

「俺は健康だよ、うちの会社は大丈夫だよ」安心している人ほど、危ないんです。

ましてや、肝臓が悪い、血圧が高い、糖尿が出た。
そこまでわかっているのに、健康な人と同じ生活をする。無茶じゃないですか。

アルコールが弱いのに付き合う。自分だけが身体の倒産。そして家族に迷惑をかけるんです。

トップというのは、健康でなければ務まらない。

トップというのは、自分一人の身体じゃないんだということを自覚してください。
今日から改めて身体の倒産、真剣に考えてください。

それでは私たちはなぜ倒産したのか、たった一言です。
「経営能力」がないから潰れたんです。これだけですよ。

私たちは慌てて商売して社長とは言われたけれど、「経営者」にはなれなかったということです。

バカだって社長にはなれますよ。継続できるかどうかが問題。

では、トップの資質とは何か。「わかったら変えられること」。

倒産人間とは、いくらわかっても変えられない。
私たちは変えられない。あれもこれも分かっているよの「物知り博士」。

体験で覚えたことは本物ですよ。学問で覚えたことなんて偽物じゃないですか。

再起できる人と、できない人。苦しみ方が違う。
再起できる人は、明日のことで悩む。
再起できない人は、過去で苦しむ。過ぎ去った過去にいつまでもこだわる。

再起できる人は、お金じゃない。「素直な心」で再起する。
素直というのは、自分が嫌な苦手な面倒くさいことをやること。
自己啓発から始めた人、見事に成功されている。

もう1つの共通点は「絶対大きくしない」ということ。
私たちに相談に来た人、ほとんど大きくしたばかりに潰れました。

注文が入ってくると、人を増やして事務所を大きくする。工場を大きくする。そのうち支店をいくつか出す。多角経営。

そのうち不況がやってきた。そのまんま頑張っている。
能力のないくせに、縮めることを知らない。

昔なら同業者が「大きく、大きく」といえば、口車に乗っちゃたもんだ。今は絶対口車に乗りません。

なぜかというと「見栄」という心を捨てたから。
何かを入れたいなら、捨てておかないと入ってきませんよ。
その1つが見栄っ張り。なんの役にも立ちませんね。

私たちの武器は何か。お金もない、信用もない。あるのはたった1つ「知恵」という武器です。

私たちは、お金のあるうちはダメですよ。追っかけまわしても入らない。
そうするとヒマになってきた。それが良かったんじゃないですか。

人間バランスよく、ヒマも時々ないとダメなんですよ。
カレンダーが埋まっているトップはダメ。「ゆとり」がない。

人を恨んだり、憎んだりしているだけでは自分がみじめになるだけだと。
これを「悟る」というんですよ。

金を持っているときは悟らない。
地獄に落ちたら悟れたじゃないですか。

「ただいまゼロ、ただいま極楽」という宗教上の言葉さえあるんです。

人を恨んで恨んで、憎みきっているうちに、疲れ果ててくる。いつの間にか逆になります。

愛情とは何か、感謝とは何か。生きているだけでも幸せだと気付きました。

私たちの仲間、倒産して自殺しようとした人間、そのあと「生きていて良かった」と言っています。

心が成長すると「お陰様で」とお客を喜ばす商売ができるようになる。

今はどこに行っても同じ商品を売っているんですから、感動を売るしかない。

約束を守る、誠実、まごころの商売。これはお客に伝わります。お客は喜んで注文が来ます。

注文というのは、後から来る。それを私たちが先に求めた。
いらないといっても、バランスよく入ってきますよ。

日本はいい国だから出鱈目な会社でも、時流に乗れば金儲けできてしまう。

儲け過ぎたお金の一番良い捨て方は、税金をうんと払うことですよ。

なぜなら、経営者の大目的とは社会に還元ですから。本当に感謝の心を持つ人は脱税などできるはずがない。

「人生の目的は人を助けることなり」

人間として生まれて死ぬまで、一人の人間も助けることができなかった。お金は儲けたけれども還元しなかったとすれば、生きていた甲斐がなかったということです。

本当に感謝の心はあるんですか。日本人は皆わかっているんですが、感謝の行動をしていませんよね。

本当に感謝の心があるなら、自分は幸せだと思っている。
幸せだと思っていたら、不平、不満、愚痴は言うわけない。不幸せな人を助けています。

「私の儲かったお金を使っていただいて、ありがとうございます。」
一番頭を下げるのは、寄付する人です。
しかし、日本人は寄付する人がえばる。売名行為の寄付。

身体は老いれば衰えます。しかし、心は死ぬまで成長できる。
心が豊かであれば、お金はちょっぴり、身体は不自由になっても、「幸せ」という財産は逃げません。

しかし、「金持ちの不幸せ」じゃ困りますと言いたい。
八起会は「幸せ」を教えている。社長でも社員でも、最終目的は幸せになること。

幸せになりたいなら「正しい生き方、正しい商売」。正しいとは、人を喜ばすことです。

(傲慢な)私の良薬は「苦しみ」だったんです。
私のような人間は、大失敗したときに、簡単に救っちゃいけません。
崖から突き落とすやり方。これも愛情ある1つ。

皆さんが赤字なら覚えておいてください。「いい話には乗るな」。
赤字でダメになっているときの「いい話」は悪い話。それを掴むから真っ逆さまに落ちてゆく。

一度生活を広げた人間が、縮めるということは、容易なことはでないんですよ。

私のような放漫経営は2割。後の8割は朝から晩まで仕事だけ。まじめにやったのに倒産。

真面目に働いていても経営はしていない。

成功の話しか聞けない勉強会、偏るだけじゃないですか。

数字が読めない。どんぶり勘定、公私混同。
収入の数字がわかっても、支出の数字が分からない。

企業と家庭とは密接につながっているです。